森薗美咲（青森山田中学校～青森山田高校～日立化成）以下、美咲

それからは数々の日本代表と活躍してきた美咲ですが、私が最も記憶に残っているのは、ある国内選考会でした。

平成２５年１２月クリスマス。世界選手権女子日本代表選考会が広島市で行われました。当時、青森山田高校３年に在籍していた、宋　恵佳選手（現・中国電力）のベンチコーチのために現地に入りました。この年のインターハイを最後に女子監督からご退職された大岡巖先生の代わりとして。また、宋選手が中国電力への入社も内定していたため、広島市で会社に挨拶をする目的もありました。

現地に入り予選リーグの組み合わせが発表になりました。
「こういう時ほどやっぱりこうなるよな。同じグループに固まるんだよな（泣）。」

・グループリーグ
森薗　美咲（青森山田中学～青森山田高校～日立化成（大会当時））。
松沢茉里菜（青森山田中学～青森山田高校～淑徳大学（大会当時）～日立化成）。
鈴木　李茄（青森山田高校～専修大学（大会当時））。
宋　　恵佳（青森山田中学～青森山田高校～（大会当時）～中国電力）。

「いろんな思いはあるけど、今回は恵佳のベンチに集中。勝たせるために最善を尽くそう….。」

予選リーグが進行し、森薗ＶＳ宋の試合がスタートしました。過去１００試合以上もベンチに入った美咲の対戦相手として、初めてのベンチコーチ。この試合、戦術もさることながら、美咲は「年下に負けられない？」というプレッシャーからか、プレーが消極的で、彼女の持ち味が発揮できないまま試合が進んでいきました。（もしくは恵佳のベンチコーチがうるさくて集中できなかったのか…..。）

ゲームカウント２対２。
第５ゲーム８－３宋リード。美咲が出したフォア前へのショートＳＶを恵佳がクロスにパワーフリック。何とか美咲がブロックしたボールを恵佳はカウンタードライブ。ノータッチ….。
「９－３。勝負ありだな。次は恵佳のＳＶだし…。」ベンチコーチをしながら思いました。
９－３で恵佳が出したバックへのロングＳＶはここまで一番得点率の高いＳＶでした。
「Good Service!」心の中で叫びました。
ところが、それまで迷いながらバックハンドで安全にＲＶしていた美咲が「思い切って」廻りこみ、バッククロスに一撃スマッシュでぶち抜きました。

「あっ！」

あの１球が直ぐに脳裏に浮かびました。
平成１９年秋田わかすぎ国体。「予選リーグ第１試合・青森県対広島県・１番・ラブオール！」

９－４、恵佳リードには代わりませんが、美咲の目が『向かっていく目』に変わったのを私は見逃しませんでした。「恵佳！美咲は終わっていないぞ！」タイムアウトを既に使っていた私は心の中でしか叫べず、試合の成り行きを見守るしかありませんでした。

ゲームカウント３対２。第５ゲーム１１対９。勝者、森薗……。

青森山田高校を卒業した美咲と久しぶりに落ち着いて話すことができたある日…..。
「板垣先生。どうしてもオリンピックに出たいんです。しつこくやっても良いですよね…..。」
２０１６年リオデジャネイロオリンピック。残念ながら美咲は代表に選出されませんでした。若い選手が急激に実力を上げ、最高位世界ランクを２３位まで上げましたが、日本女子はもっと高いレベルでの代表争いを繰り広げました。
「そして、私は長く競技を続けたいんです。みっともないですか？」

私的な考えですが。
自分の競技人生に区切りを付け、新しい人生に挑戦する。そのために「引退」という区切りをもってラケットを置くことは、今まで人生・青春のほとんど全てを捧げてきた競技者にとって素晴しい決断だと思います。何人ものトッププレーヤーの引退試合を目の当たりにし、たくさんの感動を与えていただきました。

ただ、別の選択肢があっても良いと感じます。たとえば女性であっても結婚して育児をしながら現役を続ける。「自分が納得するまで。」競技者を続けるのも選択肢の一つかもしれません。それは競技者がそれまで、どれほどの時間を練習に費やし、どれほどの情熱を捧げてきたかを見てきたからです。

美咲には長く競技者を続けて欲しい…。何となくですがそう思います。
「４０歳になっても、快速廻りこみからのバッククロスへの一撃スマッシュでぶち抜くのかな？」
「いや、動くのは無理だから、あえて相手を振り回すことに集中して、大事な場面だけ大胆に動ききるのかな？」
「大嫌いだったＳＶ練習に集中し、動かなくても点数を取ることを考えるのかな？」
卓球は経験競技です。１１点を取るためにどういう戦術を選択するのか。

そして、
「貴女が青春の全てを捧げた競技だから、悔いの残らないように。納得するまで続けて欲しい。」
と思っています。