「来る時がきたな」
私は正直に思いました。自分と一緒に高みを目指している選手の活躍が認められ、ヨーロッパNo.1のビッグクラブから声がかかったことは本当に嬉しかったです。「ぜひ挑戦して欲しい」と思いました。ただまずはシェークハンズの小谷社長、そしてアンディーと相談しよう。
アンディーとは夜遅くまで話をしました。そして「次の週末の試合前に及川選手と話をしてみよう。まずは及川選手に残留してもらうために彼が何を考えているのかを聞いてみよう」という結論になりました。
及川選手が求めた条件は一つ。「自分が勝つことも大事だし勝てば嬉しいけど、やっぱりチームで勝ちたいんです。だから強い選手を獲得して欲しいです。それなら僕も残ってこの町のために頑張りたいです。」
すぐにスポンサーの方たちに集まってもらい話し合いが始まりました。強い選手=十分な契約金が必要になる。そしてもはやトッププレーヤーになった及川選手にも日本のTリーグやブンデスリーグのトップ選手と遜色ない条件を出さなければならない。
どうする….誰に声をかければいい…クニックスホーフェンにとってのドリームチームとは….
その大きなパーツを埋める選手はただ一人。シュテガー・バースチャン選手(ドイツ・ブレーメン)でした。オリンピックで2度のメダルを獲得し、37歳ながらいまだトッププレーヤーを続ける彼は私どものバイエルン州出身でいわば「レジェンド」です。
アンディーが何度も何度も熱烈なラブコールをし、とうとう彼から返事をもらいました。「クニックスホーフェンで一緒に頑張るよ。」と。
そして及川選手も残留を決めてくれました。ホームゲームの選手発表の時に「ミズキがデュッセルドルフに移籍せず、来季もクニックスホーフェンでプレーすることを決めてくれました!」の発表に会場は鳴り止まぬ「ミズキ!ミズキ!」コール!
その瞬間、私は心の中で思いました。「及川、素晴らしい決断をありがとう。ただ、もう俺はこの試合は嬉しくて集中できないと思う。一生懸命やるけどアドバイスが下手だったらごめん」
この日もシングルスで2連勝しチームを勝利に導いてくれた及川選手は試合後のインタビューでこう答えました。
「イッヒ ビーン アイネン クニックスホーフェナー! (僕はクニックスホーフェン人です)」
単なる勝つための外国人助っ人ではなく、この町の人から愛され、そして誰もがこの5000人の町のクラブでトッププレーヤーとして成長したことを知っています。
一足早いクリスマスプレゼントをもらった私とアンディーは更衣室に駆け込みガッチリと握手をしました。
2016年1月、今から3年前に初めて私がこの街に来た時にアンディーが私に言いました。
「コージ。いつか、この小さな町をドイツ卓球界のキャピタル(首都)にしよう!」と。
最初は笑って誤魔化していましたが、一歩ずつ前に進んでいるこのクラブは、卓球クレイジーなマネージャーと卓球を愛するサポーターの方々、そして素晴らしいスポンサーの方々ががっちりとしたスクラムを組んで下さっています。
「本当にその日を迎えられるかも…」今は本気でそう思っています。
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