(写真提供:バタフライ)
選手の強化。一言で言い表すことは本当に難しいと思います。前青森山田学園卓球部総監督で数々の「超人的な記録を成し遂げてきた」吉田先生は、常日頃から「卓球は習うより慣れろ。得意な選手とばかり練習しないで、左利き、異質、カット、様々な戦型の選手と練習し、苦手を克服しなければ一流にはなれない。」と名言を残してくださいました。
平成27年3月1日、左利きの坪井勇磨(現筑波大学1年)が青森山田高校の卒業式を迎え、練習場で練習する高校生はとうとう右シェーク裏裏の4人だけになってしまいました。及川と三部はナショナルチーム合宿や数々の国際大会に出場できるから、格上の選手との練習や色んな戦型の選手との対戦があるが、平成27年度インターハイで優勝するためには高橋と一ノ瀬の強化をどう展開していくか。高橋と一ノ瀬が値千金の勝利を収めてくれることができたら学校対抗の優勝は更に近づいてくる….。
平成27年度・高校3年生になった及川・三部・高橋・一ノ瀬の英語の授業を私が担当することになりました(私の本職は英語の教師です!!)。私の授業は毎時間・毎時間、必ず最後に小テストを行います。生徒からはブーイングの嵐です(泣)。「今日も(テスト)やるんですか~?」生徒達からの問いかけにも「WHY?いつも通り授業を進めます(笑)。」4人の卓球部員も勿論しっかりやりますが、特に高橋はチャイムがなるまで何度も何度も自分の解答を見直します。「高橋の長所はこれだよ。最後までコツコツとやりきることができる。決して器用に試合を展開できるタイプではないけど、絶対にチームを救ってくれる。」私は自分に言い聞かせました。
インターハイ直前、高橋と一ノ瀬の過去の対戦記録を調べていました。そして「高橋は左利きに滅法強い。対左利き戦では自分の長所を最大限に発揮できる!一ノ瀬は右に強い。右には一ノ瀬。」
学校対抗準決勝・長崎県瓊浦高校戦。九州大会で希望が丘高校を下し優勝した瓊浦高校はダークホースではなく、必ず対戦するだろう学校でした。特に中国人留学生選手を私が見たことがなく、情報が得られていないことに私自身が不安を感じていました。
「左利きなら前半高橋。」オーダー用紙にはまず、「2番・高橋 徹」の名前から書きました。
1ゲーム目。留学生選手のSV3球目に圧倒された高橋でしたが、バック前へのショートSVから質の高いループドライブを送る展開。これなら相手のリズムを崩せる…。負けた1ゲーム目の後半、ゲームプランは見えてきました。
しかし2ゲーム目も苦しい展開が続く。0-3とされたところで、相手のネットインを拾い、フォアクロスにカウンタードライブ!ここから展開が大きく動きました。1ゲーム目に手こずったRVもチキータが決まり始め、ゲームカウント2-1リード。4ゲーム目10-7でタイムアウト。
(写真提供:卓球王国)
「次のSV何を出す?逆下回転フォア前からしっかりかける?」
「先生、逆上出して良いですか?」
「ないない。高橋。逆上?見たことないぞ。持ってるの?」
「持ってます。」高橋の表情はリラックスしていました。
「思ったとおりで良いよ。任せるよ(笑)。」
6年間一度も見たことがなかった逆上回転SVでSVエース! 学校対抗決勝進出をほぼ決定付ける貴重な1点を挙げてくれた高橋は、駆けつけた応援団に向かって控えめなガッツポーズで応えていました。
一ノ瀬は元々器用な選手でSV・RV・コース取りで先手を取ることができます。ただ、そこでラリーが終わらず長いラリーになったときのボールの緩急の付け方やコース配分。粘りきれるか。そして諦めない精神力を身に付けられるかが大きな課題でした。他の3人が両ハンドの切り替え練習がメインメニューになる中、6月中、一ノ瀬だけFHで動ききる練習主体となりました。一ノ瀬は自分の課題を良く理解し、頑張り抜きました。
大会2日目の最終戦となる、学校対抗準々決勝の愛知県杜若高校戦は難しい試合でした。ベスト4決定戦が一斉に全てのコートで行われ各学校の応援合戦が行われる中、ボーっとした雰囲気になってきた選手達には「最後は勝てるだろう」という甘い考えがあるように感じていました。
「足をすくわれるとしたらこの試合だな。」私は自分自身に言い聞かせていました。
2番に出場した一ノ瀬は相手高校のエース選手にブロックでフォアに揺さぶられた後、長いラリー戦で粘られ、僅差のゲームを落としゲームカウント0-2とリードされました。一ノ瀬の最も嫌な展開…。
落胆してベンチに戻る一ノ瀬にかけるアドバイスは2つのみ。
「一ノ瀬。1つ目。0-2だけども僅差だよ。力の差があるんじゃないよ。また確実に僅差になる3ゲーム目を取れば流れが変わるよ。2つ目。フォアに振られたら後ろに下がってラリーをしたら一ノ瀬の長所が出ないよ。必ずフォアに回してくるんだから、待って高い打球点でぶち抜きに行って良いよ。狙ってミスしても全然OKだから。」
(写真提供:卓球王国)
9-11、11-13、13-11、12-10、11-9 ゲームカウント3-2。
一ノ瀬総得点56。総失点54。
大逆転での勝利を収めてくれた一ノ瀬は貴重な追加点を叩き出してくれました。
結果論的に、次のダブルスを落とした後、4番の及川が締めてくれたため、順当勝ちに見えた準々決勝。同時進行で行われた5番の試合はやってみないとわからない試合展開…。
私しか気づいていないかもしれませんが、一番厳しい戦いが準々決勝でした。一ノ瀬が救ってくれた準々決勝であったことは間違いありません。
日本一獲得に向けて最も大事な選手、高橋と一ノ瀬は、自らの手でチームを勝利に導き、学校対抗優勝の大きな原動力となってくれました。
「二人とも本当によくやってくれた。頑張った!ありがとう!」
(➅一切しないミーティングと、100は堅いですね….。に続く)
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