アウェーで行われた第13節デュッセルドルフ戦。長く卓球のコーチをしていますが、「勝ちに不思議な勝ちあり」ではなく『超不思議な勝ち』でした..
デュッセルドルフは不動のエース、ティモ・ボル選手(ドイツ/WR15位)。いつもは脇を固めるツインエースのケルバーグ選手(スウェーデン/WR20位)とダン選手(ドイツ/WR10位)がWTTヨルダン(南アフリカ)に出場し不出場の予定。それでもドイツの若きエース・シュトゥンパー選手(ドイツ/WR124位)とインドの英雄カマル選手(インド/WR47位)の布陣。
クニックスホーフェンはフィリップがWTTカタールに出場のため不出場。幸矢(宇田選手)は来週から行われる全日本選手権に向けての準備のため不出場。バスティと、11月に股関節の手術をし今節が復帰戦となったアレグロ、そして前日にWTTヨルダンから帰国したキリアンの3人。
試合前日に私の携帯が鳴り「コージ、すまん。練習をしていたら首を痛めてしまった。明日までに回復して欲しいけどコートに立てるかもわからない」とバスティ。「まずは会場に入って練習をしてみてからオーダーを決めよう」と話し合いました。
デュッセルドルフがボル選手を何番に出場させるのかは、いつも全く読めません。エースとしてシングルス2点もあり、ダブルスに出場しラストで確実にチームを勝ちに導くのもあり、2番に出て先に相手チームのエースを捕まえるのもあり..
バスティの怪我は予想以上で「コートに立って少し試合をしたらすぐに棄権しよう」と話をしました。ただ相手にはバスティの怪我をできるだけ悟られないようにしながら、バスティを何番に出すか考えました。
「チームとして勝つことは簡単ではないけれど、どうやればほんの少しのチャンスを逃さず掴むことができるか」を考えた末のオーダーは
1番 キリアン
2番 バスティ
3番 アレグロ
相手のホームゲームは第1試合で相手のエースと私たちの2番手が対戦します。棄権させるなら最初の試合で棄権させた方が、もしかしたら2番から流れを切らずに戦えるかもしれない。できればボルが1番で出てきて欲しい。そうなればキリアンとアレグロがシングルスで勝てる可能性はある。ただデュッセルドルフはシュトゥンパーをエースで使うケースもあるので、そこは賭けるしかない..
試合45分前オーダー交換
第1試合 バスティ vs ボル
第2試合 キリアン vs シュトゥンパー
第3試合 アレグロ vs カマル
第4試合 キリアン vs ボル
オーダーがどんぴしゃり!!
試合開始をベンチで待っていると「ハロー コージ!」と声をかけてくる選手がいました
「ダン!今帰ってきたの?」
「さっき南アフリカからデュッセルドルフ空港に着いて直接来たよ」
まさかダンの出場はないとは思うけど、デュッセルドルフは抜け目がないな…
17:00試合開始
第1試合 バスティ vs ボル。1球だけ試合をしてすぐ棄権。それでもコートに立ってくれるバスティには感謝。
第2試合 キリアン vs シュトゥンパー。バスティが棄権することを知らせていたキリアンは十分なウォーミングアップをしコートに。それに対して慌てて手首足首を回してコートに出てきたシュトゥンパー。世界選手権団体準優勝のレギュラーとして活躍したシュトゥンパーはバックハンドが特に強く、多彩なサーブとチキータからガンガン攻めてくるタイプです。ただ、まだ対応できない所や打つコースが単調な部分もあります。「後輩には負けられない」と意地を見せたキリアンが3対1で勝利!
第2試合が終了し15分の休憩の時にラストのダブルスの選手を提出します。クニックスホーフェンはコートに立てるかわからないけどバスティとアレグロ。デュッセルドルフは試合前に帰国したばかりのダンとカマル。
「シュトゥンパーとカマルならチャンスがあるかもしれないけどダブルスのスペシャリストのダンが出てくるとは。僅かな隙があるとしたら今日は全くボールを打っていないダンがどれだけのプレーができるかだけかもしれない..」
第3試合 アレグロ vs カマル。リーチが長くフォアの一撃に得点力のあるカマル。2ヶ月ぶりの復帰戦としては悪くなかったアレグロですが、カマルのフォアハンドを止め切れず1対3で敗退。
第4試合 キリアン vs ボル。過去の試合では2対3で敗退しています。WTTヨルダンで成績の振るわなかったキリアンですが「キリアンの卓球システムは悪くない。ただキリアンは考えすぎて試合を壊すときがある。もっと試合はシンプルに、そして自信を持って試合をした方が良い。相手が変えてきたら自分も変えればいいだけであって、しつこく自分の卓球システムを繰り返した方が良いと思う」バスティもアドバイスをしてくれました。
ヨーロッパの皇帝ボルは、もちろん穴などありませんが、苦手(と思われる)ところはあります。今までは考えすぎていたので今日の戦術は、「そこにしかサーブを出さないこと」
第1ゲーム10対9で早くもタイムアウトを取り1ゲーム目を先取。しかしここから欲が出て無理な回り込みをし振り回されてしまいゲームカウント1対2と逆転されます。「キリアン。考えすぎないこと。ボールがフォアに来たらフォアハンド、バックに来たらバックハンド。シンプルに。サーブは同じ場所に回転を変えて出すだけ。苦し紛れのロングサーブも今日はいらない。絶対にティモの方が苦しくて、苦し紛れのレシーブミスをするから、そこが勝負!」
第4ゲームを取り返し、勝負は最終ゲームに!4対1とリードしティモがタイムアウト。次の1球は予想どおり苦し紛れのレシーブでミス。5対1でチェンジコート。「フゥー」と大きく息をつくティモの顔つきが一瞬変わったように見え、そしてここから「本気の」ティモが登場。長いラリーでことごとく得点を重ねられ、あっという間に8対5と逆転されます…
「キリアン、ステイテーブル!(動きすぎるな!)シンプルタクティクス!(シンプルに戦え!)」
8対10からジュースに追いつき、2度目のマッチポイントでのレシーブもティモの嫌なところに押し込み劇的な大逆転勝利!
少し浮かれたい場面でしたが、
「さて.. ここからダブルスと行きたい所だけれど、バスティはコートに立てるのだろうか..」
「動けないけどやれることをやってみるよ」とバスティ。
「ただ無理だと感じたら棄権しても良いよ。後半戦はまだまだ長いし怪我が悪化する方が最悪かもしれない。判断は任せるよ。」
全く動けないのに正確にボールをコントロールするバスティと「自分が決めなくては」と無理をし過ぎず、バスティに丁寧にボールをつなぐアレグロが何と1ゲーム目を先取。第2ゲームは逆に全く歯が立たなかったものの、このゲームの負けで相手が何をしてきたいのか、こっちは何をすべきか、そして相手の最大の弱点はどこかが見えました。ですので全く落胆せず冷静にアドバイスをしました。
「アレグロ、相手のフォアサイドががら空きに見えて、そこに打ち込んでもフォアクロスに打ち返されたら今日のバスティーは動けない。とにかく相手のバックに6割の力でいいから繋いでくれ。そうすればバスティのバックにボールが来るからバスティーも何とかできる。あとは徹底的に台上の小さいボールで勝負する。
ゲームカウント2対1とリードし、第4ゲーム9対7でタイムアウト。
「バスティ、次のレシーブは2本ともミドル前にストップしてくれ」
何と勝ちました!!
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板垣孝司監督
青森山田学園中高男子卓球部監督を経て、現在ドイツブンデスリーガ1部のヘッドコーチ。 これまで青森山田でオリンピック選手を始め、多くの日本代表を育ててきた。シェークハンズでは、初心者からトップ選手、ジュニア選手に有効な練習方法まで色々なテクニックを発信。
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